『創造性概念の混乱を哲学的に解きほぐす!』
本書を一読して思い知ったのは、創造性という概念がいかに知的に混乱した状態にあるかということ。著者ベイリンが批判してやまない「思考プロセスの独自性としての創造性」や「創造的人格特性」といった心理主義的見解は、紛れもなく『天才の脳科学』の著者アンドリアセンが擁護する見解にほかならないように思えることからして創造性概念の混乱状態は明白です。
ベイリンの哲学的論証はその仮想敵がいささか戯画化・単純化されすぎている気味があり、そのためベイリン自身の論証の説得力も切れ味が鈍いというのが率直な印象。プロセスに力点を置く心理主義的見解に対して「伝統に対する貢献・有用性としての創造性」という結果としての産出物に力点を置くベイリンの見解自体は頷けるのですが、ベイリン自身の説明の仕方はあまり巧みとは申せません。
特にクーンの『科学革命の構造』を完全に誤読してしまっておられて、そのあまりの勘違いぶりはクーンに批判的な科学論者でも眉をひそめるに違いないほどです。そういう本がカナダでは教育学会賞を受賞しているというあたり、賛成であれ反対であれ畑違いの異分野の業績に口を出すことの難しさを思い知ります。